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2011年12月31日土曜日

「エクスペリエンスデザイン」を考える

「UXデザイン」と聞いて、その職業をイメージできる人は、どれくらいいるんだろうか?? 具体的に定義できなくても、なんとなくイメージできるだけでもいい。きっとWeb業界の人なら、聞いたことがあるとか、経験的に理解できる人も多いだろう。でも、組込みの情報機器やパッケージアプリの関係者になれば、その認知度はぐっと減るのだろう。情報機器やITに関係ない人には、耳にすら入らないのかもしれない。

私は今年、長年務めてきた会社を辞め、新しい活動の場を作ることにした。その際、これまで関わりの無かった業界、分野、職業の人ととにかく会ってお話しする機会を作ることにした。そこで、今までデザインの周辺しか見えていなかった現実に打ちのめされながらも、様々な分野で共通して起こっている変化に気づくことができた。

それは何か?
言葉にすると今更感が漂うのだが、
「経験」への注目だった。

製造業からもサービス産業からも経験価値の創造が本格的に行われ、改めてパインとギルモアの「経験経済」が注目される世の中になってきた。
一方、都心を中心としたサードプレイスでのワークショップの活発化は目覚ましく、コミュニティでの学び「経験学習」の効果に注目が集まってきている。

作る人も使う人も、コミュニティも経済も「経験」。これは流行りなどではなく、真面目に、真摯に受け止めなければいけない現象である。

ところで、UXデザインってなんなのか? User eXperience Design, それは、使う人の体験を考えて、モノの成立ちをデザインすること。体験のコンセプトをつくり、ストーリーを組み立てて、適切なユーザーインタフェースを設計すること。

残念ながら、今、注目の集まっている経験価値を創造する職業とは言い難い。




しかし、これからのエクスペリエンスデザインが、経験価値を創造する職業だとしたら、ライフスタイルを豊かに、思い出を豊かに、人と社会がハッピーな関係をつくるデザイン。まさに、人生を演出するような役割になる。
ハードウェアやインタフェースの制限のない世界で、それらを自由に操り組み合わせて、人々の経験をデザインできるようになる。

夢物語みたいだけれど、そんな仕事が、ちょっとだけ先に見えている。
そして、今後そんな仕事に携わっていきたいと思う。







本年も多くの方に支えられ、見守られてなんとか生き延びることが出来ました。
本年出逢えたみなさま、どこかでつながっていたみなさまに感謝いたします。

来年2012年へ豊富と期待をこめて。

__福島への車中、MAXやまびこにて。

2011年12月30日金曜日

体験をとらえるマッピング

横浜デジタルアーツ専門学校の1、2年生を対象とした「体験デザイン入門」の講義。今回はエピソードデータを読み解き、分析する授業を行いました。
最初はちょっと難しすぎるかな、と思ったけれど、そんなことない。すごくいい分析ができました。
UXを捉える軸として、面白い視点がみつかりました!


「感動した体験のエピソード」1人3つ持ってきてもらいました

なぜ感動したのか、なにが良かったのかを分析して貼り出します

エピソードの中に含まれる経験の要素に気づきはじめたぞ

エピソードのマッピング作成

ここからは、書き出した要素を参考にしながら、エピソードを2軸マトリクスに配置していきます。エピソード単位でのKJ法を行いながら、それぞれのエピソード間の位置関係を決めて行き、最後に軸を定めていく方法です。

複数の要素を含むエピソードを配置するのは難しい。

学生さんたちは、マッピングの難しさに加え、自分の考えていることを言葉で表す難しさにも直面したようです。しかし、他のグループを参考にしながら、自分たちの感覚に近い言葉を必死に探し、軸がつくる空間に目を向けることで、だんだん方向性が決まっていきました。

発表!このグループの軸は・・・
景色に対する感動 ←→ 人に関する感動
意図していなかった ←→ 意図していた

個人(で体験)←→ 団体(で体験)
初めての経験 ←→ 二度とできない経験

『感情の比重軸』満足感 ←→ 哀しい・消失感
『対象物軸』生物・直接(受動的な体験) ←→ 物・間接(能動的な体験)

外部からの刺激 ←→ 自分でなにか行動した
継続的な体験 ←→ 一時的な体験



体験の中にある時間軸や、モノと人の関係性、感情、コンテクスト情報など、幅広い視点に気づくことができました。
実際に完成したマップも良かったけれど、自分たちの考える空間をディスカッションしながら視覚化できたことは、これからいろんなことに役にたっていくと思います。


●関連ブログ
 1回目:フィールドサーベイ・・フィールドワーク最初の一歩
 2回目:情報分析・・体験をとらえるマッピング
 3回目:アイデア創出・・街の集客方法を考えるワークショップ

2011年12月22日木曜日

HCD上流工程の発想法ワークショップ

12月13日(火)にHCD-Netの主催するセミナー「HCDの上流工程の手法と発想法ワークショップ」において、ワークショップを担当してきました。
ユーザーにとって嬉しいデザインをするために新しいコンセプトを創造する方法を、講義とワークショップで学ぶことができるセミナーです。

・「HCDにおけるコンセプトと発想手法について」 山崎 和彦氏(千葉工業大学)  
・「HCDにおける視覚化手法について」 浅野 智氏(横浜デジタルアーツ専門学校)  
・発想手法ワークショップ-1「体験からの発想」 山崎 和彦氏(千葉工業大学)  
・発想手法ワークショップ-2「XB法」 三澤 直加氏 (株式会社グラグリッド)

ユーザー体験を捉えるための軸とそれぞれに対応する発想法について(山崎先生)

デザインプロセスで行われる視覚化手法について(浅野先生)

ISO 9241-210と発想についての関係性も。


「花器」をデザインするワークショップ(山崎先生)

「モノで発想する」ことと「体験で発想する」ことの違いを身をもって体験できるおもしろいワークショップでした。花器をデザインするアプローチを2つのテーマ設定で行いました。テーマの違いで出てくるアイデアが変わってしまう面白い体験でした。

ここからは私が担当するXB法ワークショップ(シート記入型)

グループでブレスト中。みなさんの楽しそうな様子を観てまわる

HCD (人間本位のデザインプロセス)では、使いやすいものをつくるために、これまで「問題解決型デザイン」が優先的に考えられていた部分があり、上流行程から「ビジョン提案型デザイン」の発想することまでは、なかなか手が回らないという現実がありました。
しかし、今回このワークショップは募集から数日で満席になるという反響ぶり。みなさんの注目の高さが伺えます。

また、提案型の発想が求められる時代に、個々の発想能力を活かすためには、個々の柔軟な発想力に加え、適切なプロジェクトマネジメント、特に目標設定がとても大切です。デザイナーが目標設定に関与できる組織づくりの大事さに気づいた一日でした。


◎関連ブログ
 情報デザイン研究室浅野先生のブログ
User Interface Design Clipping(参加者:千代さんのブログ)
隣合わせの灰と青春(参加者:松崎さんのブログ

2011年12月14日水曜日

フィールドワーク最初の一歩

横浜デジタルアーツ専門学校の1、2年生を対象とした、「体験デザイン入門」という授業を行ってきました。5回にわたるこの講座、フィールドワーク、エピソード分析から、コンセプトデザイン、シナリオの作成など、体験に根ざしたデザインを行うための基本的な考え方を学びます。

第1回目は「フィールドワーク〜街に出て情報を収集しよう〜」

今回はデザインの勉強を始めたばかりの1年生が大多数ということもあり、具体的な情報収集よりも、「状況の多様性に目をつける意味」に気づいてもらうことが目的でした。
そこで、用意したのが、こんな観察シート。




この観察シートに、それぞれ5つ以上該当するものを見つけて帰ってくる、という課題です。もちろんこの7つの観察ワードに合わせて写真をとってもOK。制限時間は1時間30分。
この7つの観察ワードは、単純なモノの特長をみつけるだけでなく、モノの価値判断に影響を与えている経験や知識を意識できるキーワードを選びました。

4~5人のグループに分かれて出発!

さてがんばるぞ。

観察ワード、人によって捉え方が違うみたいだぞ。
グループ内で熱いディスカッションも。

よし、あっちにいこう!

ここからは、学生さんたちのノートをちょこっとご紹介。
高機能なもの・・・エスカレーター

それがあると楽ができるもの・・・電光掲示板

それがあると楽ができるもの・・・自動改札機

ぬくもり・優しさを感じるもの・・・点字ブロッグ

ぬくもり・優しさを感じるもの・・・・クリスマス飾り

ぬくもり・優しさを感じるもの・・・・音声ガイド付き案内版

成長、進歩しながら変化するもの・・・ディスプレイ

成長、進歩しながら変化するもの・・・薬屋の商品ラインナップ


自然の美しさがあるもの・・・木のシルエット


高機能なもの/成長、進歩しながら変化するもの・・・新型自転車置き場

ぬくもり・優しさを感じるもの・・・寒さでまるまった鳩

高機能なもの・・・高層ビルの掃除用クレーン

ぬくもり・優しさを感じるもの・・・手書きのメニュー

デザインが美しいもの・・・黒いファミマ!!

街を見つめる学生さんたち

自然の美しさがあるもの・・・ガラスに映った空とビル群

自然の美しさがあるもの・・・紅葉した並木

どんなものがあったのか?振り返りながらまとめ

どんなものを見つけたのか、どうしてそう感じたのか
グループごとに振り返った結果を発表。
最後にフィールドワークの基本的な講義。


通常、仕事でフィールドワークをする時には、あらかじめ視点を決めて調査するということはほとんどありません。
川喜田二郎さんの言葉「渾沌をして語らしめる」に 代表されるように、混沌とした情報と情報の中にその意味を見いだすことで、新しい視点を発見することが大きな目的となるからです。
しかし、どのような視点で観察していいのかわからない場合、視野が狭くなってしまう傾向があります。そういう時には、今回ご紹介したよう に、単純でいて幅の広いキーワードを用意しアプローチするというのも有効なやり方です。
いつもと違うことに目をむけ、モノや人の行動の意味について考えること は、今後のデザイン活動にとって不可欠なものになると思います。学生のみなさん、がんばってください!

○生徒のブログ



●関連ブログ
 1回目:フィールドサーベイ・・フィールドワーク最初の一歩
 2回目:情報分析・・体験をとらえるマッピング
 3回目:アイデア創出・・街の集客方法を考えるワークショップ